スチュワーデスの寮生活2
〜電話と手紙が生命線〜
どうして寮はこんな不便な場所に・・・と何度も思う利香さんであったが
プライベートで便利なこともある。それは実家に帰省するとき。
寮から空港へは近いのでサッと荷物をまとめて飛行機に乗れば
すぐに実家に帰ることが出来るのは楽だ
でも、
やっぱりおしゃれな街に住みたいなぁ。そんなことを考えながら
自分の部屋へと向かう利香さん
3階の廊下ではいつもの風景がある。寮に帰って来たなあと実感する瞬間である
もしも寮の中に入ったら男性はとても驚くに違いない
フライトの時の凛々しいスチュワーデスの姿とは天と地の差である
パジャマ姿で廊下に座って荷作りをしている子がいる
部屋が狭いのでスーツケースを広げると足の踏み場もなくなってしまうからだ
同じ階に住んでいる美人の同期がピンクのネグリジェを着て、
すっぴんで頭にカーラーを巻いたまま廊下を歩いている
部屋に入り、着替えもしないまま、まずは手紙を開ける
商社の人の手紙は平凡だった
「楽しかったです、また会いましょう、電話します」
同期の手紙はいつもの仕事のグチと美味しいお店の話、
たわいもない世間話の類いである
今のCAも昔のスチュワーデスも文章を書くのには慣れているので
手紙やメモを書くのは面倒ではない
同期や仲のいい同僚とフライトですれ違いになることが多いので
互いのメールボックスなどを利用してメモや手紙で連絡を取ることが
習慣になっているのだ
着替えもしないまま、同期に返事を書く
商社の人には寮の電話番号を教えたのできっと電話がかかってくるだろう
制服を脱ぎ、大浴場へ。風呂からあがるとジャージに着替え食堂へ
食事を終え、ちょうど玄関のロビーにさしかかったとき、
天井のスピーカーからアナウンスが聞こえて来た
「鈴木洋子さん、鈴木洋子さん、お電話です」
寮の電話は呼び出しだ。玄関ロビー受付にある電話がかかると
館内放送のマイクのスイッチを入れ、呼び出しをする
電話番をしているのは寮に住んでいるスチュワーデスである
誰かから かかってくる約束があるのだろう、電話の前から離れない子もいるので
そんな子が自然と電話番になっている
アナウンスが入ってから10秒もしないうちに「鈴木洋子」さんが
猛ダッシュで階段を降りてくる音が聞こえた
ドタ!ドタ!ドタ!
そんなに急がなくても、と思うのだが気持ちが焦っているのだろう
純粋な乙女心とも言えるが、階段を走るのはとても危険だ。
スリッパで走るスチュワーデスがハデにコケる姿を
寮生活4年で2度ほど見かけたことがある利香さんである
呼び出し電話にまつわるストーリーは多くある
パブロフの犬状態のスチュワーデスの話。
スピーカーからアナウンスの声が聞こえる前、
マイクのスイッチが入る「ガザッ」というノイズ=電話呼び出し=男性から電話
という条件反射。自分への呼び出しでもないのにロビーの電話へ猛ダッシュしようとする
よほどその男性からの電話を待ち望んでいるのだろう・・・
これもカワイイ乙女心のひとつに思える
受ける電話は寮の呼び出しの電話だが、こちらからかけるのには
公衆電話が数台並んでいる
職種に限らず女性の長話は今も昔も変わらない。
数台ある公衆電話が埋まってしまうと新人スチュワーデスにとっては
辛いところだ。話をしている最中なら早めに切り上げて
先輩に電話を譲らなければならない
手紙や電話でコミュニケーションがとれ、お気に入りの男性が彼氏になったとしても
寮生活でのデートも困りもの
何せ門限があるのでその時間には戻らなければならない
門限に間に合わない時は外泊を届け出ておけばいいだけなのだが
これもいちいち面倒くさい
毎回毎回、泊まりは渋谷のラブホテル。何だか不倫のカップルみたいに思え、
それがイヤで別れたというCAも存在する
また寮住まいのスチュワーデスは"連絡が取りにくい"、"不便"というレッテルを貼られ、
成立するはずの恋愛も成立せず、敬遠されてしまうケースもあったようだ
そんなこんなで寮脱出を計画している利香さん
一人暮らしを始めたら、あの家具とあのソファを買って
テレビはあれでカーテンは・・・
彼氏が出来たら部屋に入れようかな、それとも男子禁制にしようかな・・・
あれこれ考えつつ、今日も電話が誰からもかからず ちょっと寂しい利香さんであった
さて、ビールでも飲んで寝ようかなと思い、共同の冷蔵庫に行き、扉を開ける
ラッキーなことに またも名前の書いていないビールを発見した
缶を開け、ビールを一気飲みだ。すると突然背後から後輩の声、
「それ わたしのです!」
思わずビールを吹き出しそうになる利香さん、26才の夏の夜であった。
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2007.7.16